11月中旬、米国のファイザー社やモデルナ社の開発した新型コロナウイルス感染症ワクチンが、実地での使用を模擬した第3相試験で、発症率を95%程度減少させたという報道がありました。理論的には可能と考えられていたものの、実際に開発されたことのなかったメッセンジャーRNAワクチンが、どうやら本当に効果があるようだと分かり、科学技術の発展を実感しました。
新型コロナウイルスは、基本再生産数は2.5程度(1人の感染者が平均して2.5人に2次感染させる)なので、理論上、60%の人が免疫を持てば“集団免疫”の状態となり、流行は終息すると計算されます。そうすると、ファイザー社やモデルナ社のワクチンは、これを十分に上回る効果のように見えます。ただし、実際には、それ程単純な話ではありません。ワクチンの効果は、①発症予防,②重症化予防,③感染予防,④2次感染予防があります。今回、明らかにされたのは①(モデルナの場合は②も)で、③の効果は測定されていません。ですので、実際には、ワクチン接種者の中にも、相当数の未発症感染者がいたと考えられます。単に発症する人が減っただけで、未発症感染者が相変わらず2次感染を起こし続けるようだと、流行は収まりません。また、④も重要で、今回のワクチンを接種していたにも拘わらず発症したような人は、2次感染力の強い、いわゆる“スーパースプレッダー”ばかりであったとすれば、感染は収まらない可能性があります。逆に、発症率は変わらなくても、2次感染率を下げて再生産数を1以下にするようなワクチンが開発されれば、流行は収まるのです。④の効果は、直接には測定することは出来ず、ワクチン接種が終了した後に、理論的に推計されます。
その他にも、今回のワクチンには課題があります。基礎疾患のある高齢者など、最も保護すべき対象者がワクチンの被験者に入っておらず、これらの人でも免疫を賦活化できるのか、安全性に問題は無いのか、分かっていません。また、新型コロナウイルス感染症から回復した患者の抗体の持続期間が短いことが知られていて、ワクチンの効果の持続期間も問題視されています。ウイルスは変異しますので、ワクチンの設計に合わない変異が起こると、ワクチンは効かなくなります。これらの課題を念頭に、本当の効果を見極めていく必要があります。