インフルエンザによるパンデミックと考えられる流行の記録は1800年代ころからあるようですが、パンデミックの発生が科学的に証明されているのは20世紀以降で、スペインインフルエンザ(1918~1919年)、アジアインフルエンザ(1957~1958年)、香港インフルエンザ(1968~1969年)、新型インフルエンザ(2009年~2010年)と4回のインフルエンザウイルスによるパンデミックが記録されています。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるパンデミックは歴史的に証明された5回目のパンデミックで、コロナウイルスとして、初めてのパンデミックです。これらのパンデミック・ウイルスは、変異の結果、或いは感染による免疫の結果、軽症化して、季節性の感染症となって現在に至っています。SARS-CoV-2についても、今後、新たな変異株が出現するかもしれませんが、多くの人がワクチンや自然感染によって免疫を得ているため、軽症の季節性感染症に移行すると考えられます。
SARS-CoV-2ウイルスに類似したウイルスは、東南アジアのコウモリから数多く見付かっており、SARS-CoV-2はコウモリ由来だと考えられています。ただ、コウモリからヒトに直接感染するようになったのか、その中間となった動物がいるのか、については、未だに科学的に解明されていません。そのため、ウイルス研究の結果として人工的にSARS-CoV-2ウイルスが発生してしまったという風評も起こりました。しかし、SARS-CoV-2に類似したコウモリのウイルスでヒトの細胞に感染することが確認されたウイルスも報告されていて、科学者のほとんどは、SARS-CoV-2は自然なウイルスの進化の結果として発生したと考えています。SARS-CoV-2は、ヒトやコウモリだけでなく、センザンコウ,ミンク,白尾鹿,犬,猫,などの動物にも感染し、伝播することが明らかになっており、新たなコロナウイルス感染症の発生源が野生の世界に拡がっています。そのため、次のパンデミックも、コロナウイルスではないか、と懸念されています。
これらのことから、現在、ウイルスが変異しても変わらない「保存領域」を抗原としたワクチンが研究されています。これは、今後のSARS-CoV-2の変異株だけでなく、新規のコロナウイルスにも効果が期待できる、汎コロナウイルス対応のワクチンです。将来的には、汎インフルエンザウイルスと汎コロナウイルスの両方を、1回の接種で対応できる多価ワクチンの開発が検討されると考えています。