COVID-19が徐々に一般的な感染症として社会に受容されつつありますが、5月になり、動物由来のウイルス感染症である「サル痘」(Monkeypozx)の患者が欧米20カ国以上で認められ、海外渡航歴の無い人も含めて200人以上の患者が確認されました。サル痘ウイルスは天然痘ウイルスと同じ系統に属し、自然界では、齧歯類やサルなどの動物で感染を起こしています。サル痘ウイルスのヒトへの感染は、1970年以降に主にアフリカで確認されており、今回のようにアフリカ以外で数多くの症例が出たことは異例です。日本国内では2003年以来認められていません。サル痘ウイルスには大きく分けてコンゴ盆地系統群と西アフリカ系統群の2種類の遺伝的系統群があり、コンゴ盆地系統群は西アフリカ系統群に比較して、重症化しやすく、またヒトからヒトへの感染性が高いとされますが、今回の事例はと西アフリカ系統群が原因となっています。サル痘は急性発疹性疾患で、感染した動物に咬まれたり、その血液や体液に触れることで感染します。ヒトからヒトへの感染は稀ですが、飛沫、体液、汚染された衣類・寝具などとの接触による感染があり得るとされています。大部分の症例の潜伏期間は10日~2週間で、潜伏期間の後、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1~5日続き、その後発疹が出現します。発疹は典型的には顔面から始まって体幹部へと広がり、皮膚だけではなく、口腔、陰部の粘膜、結膜や角膜にも生じることがあります。多くは2−4週間で自然に回復しますが、小児では重症化する傾向にあります。致命率は0~11%と報告されていますが、先進国では死亡例は報告されていません。治療としては、対症療法が行われます。天然痘に対する一部の抗ウイルス薬について、動物実験ではサル痘に対しても有効性が認められていますが、確立した治療法とはなっていません。天然痘ワクチンはサル痘の予防にも有効で、サル痘ウイルスに曝露された後4日以内にワクチンを接種すると感染予防効果が、曝露後4-14日で接種した場合は重症化予防効果があるとされています。1980年にWHOは天然痘根絶宣言を出しましたが、天然痘ワクチン接種はそれ以前から行われなくなっていて、日本でも1976年以降行われていません。サル痘の発生を契機に、欧米諸国はワクチン確保に動き出しているようです。