健康科学コラム

No.38:睡眠

人は一生のうちの約3分の1の時間を睡眠に費やしているものの、人の心身の機能に関する睡眠の役割は、未だにほとんど解明されていません。一方、近年の研究で、睡眠不足が、うつ病や糖尿病、心血管疾患などの発生や、子供の発育の問題、不妊症、認知症の進行などのリスクを大きく上げることが明らかになっています。1日当たり7時間~9時間寝る人と比べて、平均6時間未満しか寝ない人は13%死亡リスクが高く、6時間~7時間寝る人でも7%死亡リスクが高いと推計されています。実は、日本人の1日の平均睡眠時間は7時間22分で、OECD加盟30カ国で最下位となっており、 全体平均の8時間24分とほぼ1時間もの差があります。厚生労働省研究班によれば、日本人の5人に1人は睡眠に何かしらの課題があるとされ、特に、30代~50代の男性、40代と50代の女性では、50%弱が1日の睡眠時間が6時間未満で、80%超が7時間未満となっています。また、乳幼児から青少年の調査でも、日本の子どもの睡眠不足が顕著です。睡眠時間がとれない理由としては、男性では30代~50代で仕事が最も高い割合ですが、女性では仕事以上に、30代で育児、40代で家事が高い割合となっています。一方、男女ともに、20代では、「就寝前の携帯電話、メール、ゲームなどに集中すること」が最も高い割合です。

健康面での影響だけではなく、睡眠不足は仕事の生産性や創造性を低下させることも分かっています。米国RAND研究所は、日本の睡眠不足による経済損失は年当たり1380億米ドル(約18兆円)に達し、先進諸国の中で最も高い対GDP比(2.92%)であると推計しています。例えば、6時間未満しか寝ていない人が6~7時間寝だしたとすると、それだけで日本経済に7570億USD (11兆3000億円)が加わるとの推計です。国民的な睡眠不足は社会生活の慣行と深く関わっており、労働環境の改善や行政的支援を含めた多面的な対策が必要な問題ですが、個人のレベルでも、一貫した就寝・起床時間とし、良く運動し、就寝前の電気機器の使用を制限することが推奨されています。睡眠不足の範疇に入ってしまう方もいらっしゃると思いますが、良く寝ることを大切にし、生活習慣に留意して頂きたいと思います。