近年、高齢者が浴槽で溺死する事故が増加しています。厚生労働省の調査では、家庭の浴槽での溺死者数は、2006年から2016年までの10年で3,370人から5,138人へと、約1.5倍に増加しています。消費者庁によれば、浴槽での溺死者の9割は65歳以上の高齢者で、特に冬に多いとされています。冬に起こり易い浴槽での事故の原因として考えられているのがヒートショックです。急激な温度の変化によって血圧が大きく変動するなど、身体に大きな負荷がかかることで起こり、失神や不整脈などを引き起こします。意識消失から出浴が困難となり、体温の致死的上昇から溺死につながると考えられています。冬の脱衣場や浴室は特に室温が低くなりがちなため、衣服を脱いで急に浴槽の熱い湯につかると、急激な温度差によって大きく血圧が変動し、ヒートショックが起こり易くなるのです。ヒートショックの予防としては、①脱衣場と浴室を入浴前に温めておくこと、②湯温を上げ過ぎず(41度くらいまで)、長湯をしない(浴槽につかる時間は10分以内)こと、③浴槽からゆっくり立ち上がること(水圧の変化も伴って急激な血圧変動を起こり得る)、④一人で入るときは家人に声をかけてもらい、入浴中に何か起こっても早期に対応可能とすること、⑤食後の入浴は避けること(食後は食後低血圧での失神のリスクがある)、⑥飲酒後や睡眠薬を飲んだ後の入浴は避けること(不慮の事故が起こり易い)、などが挙げられます。ヒートショックは、基礎疾患の無い全く健康な人にも起こります。私も、昨年、健康だった70代前半の知人を、温泉旅行中の浴槽での溺死で失いました。寒い冬はお風呂で温まりたくなりますが、ヒートショックは誰にでも起こり得るリスクであることを認識しましょう。