Topics No.23:
生活保護制度をめぐる最近の動向(2013/05/20)
[1]はじめに
生活保護の受給者は近年急増しています。特に、稼働能力のある受給者の増加が問題となっており、不正受給や生活扶助基準をめぐる報道、制度改革への議論が続いています。今回は、生活保護制度の現状と問題点、最近の国と地方自治体の施策、改革の議論の状況を概観します。
[2]生活保護制度の現状と問題点
(1)受給者数等の現状
生活保護の受給者数は、平成23年3月末時点で、59年ぶりに200万人を超え、その後も増加を続けており、平成24年3月末現在では210万8096人となりました。 平成23年度における受給世帯に占める「高齢者世帯」の割合は、42.5%と依然最多です。一方で、高齢者世帯、障害者等世帯、母子世帯のいずれでもない「その他の世帯」が平成20年度まで10%前後であったものが、平成21年度には13.5%、平成22年度には16.1%、平成23年度には16.9%と、上昇傾向にあります。 また、保護開始の主な理由別世帯数の構成割合において、「働きによる収入の減少・喪失」によるものが、平成20年度までは18%から19%程度であったところ、平成23年度では27.8%と、大きく上昇したことが注目されます。 生活保護費負担金(事業費ベース)は、平成21年度に3兆円を突破し、平成22年度には3兆3296億円に上っています。このうち、医療扶助が1兆5701億円で、47.2%を占めています。過去10年の推移を見ても、医療扶助の占める割合は概ね50%前後で推移しています。(2)最近取り上げられた問題
(a)年金支給額、最低賃金額との逆転現象
生活保護費が、年金支給額や最低賃金の額と「逆転」することがある点が問題となっています。都市部の生活保護費の生活扶助基準額は65歳単身で80,820円(1級地-1)であり、基礎年金満額の65,541円を上回ります。また、北海道、宮城、東京、神奈川、大阪、兵庫の6都道府県においては、最低賃金で働いた場合の収入が生活保護費の受給額を下回る逆転現象が起きています。(b)医療扶助
医療扶助をめぐっては、制度を悪用した診療報酬詐欺事案や、向精神薬を大量に入手させて転売する不正事案が問題となっています。向精神薬大量入手事案に関連して、厚生労働省は、平成22年1月に精神科に通院した42,197人のレセプトサンプル調査を実施し、「同一月に複数の医療機関から向精神薬を処方されていた受給者」2,555人のうち、不適な受診が認められた受給者が1,797人(70.3%)に上ったと発表しました。厚生労働省は、福祉事務所に「医療扶助相談・指導員」を配置し、医療扶助適正化や後発医薬品の使用促進を推進しています。(c)不正受給
平成22年度の生活保護の不正受給は、全国で25,355件、128億7426万円となっており、過去最高でした。平成21年度と比較して、件数にして5,629件、金額にして26 億5955 万円増加しています。その内訳は、稼働収入の無申告11,026 件(43.5%)、各種年金等の無申告7,015件(27.7%)などです。不正受給の大部分は、収入等の無申告ですが、一方で、北海道滝川市で発覚した2億4千万円の通院移送費の架空請求事案のように、悪質な不正受給事例もありました。効果的かつ効率的に資産調査を行うため、厚生労働省と全国銀行協会、全国信用金庫協会、全国信用組合中央協会との間で、金融機関に対する資産調査の本店一括照会が合意され、平成24年12月より、開始されています。(d)「貧困ビジネス」
生活保護受給者へのサービス提供により多額の利用料を徴収して利益を得る「貧困ビジネス(例:宿泊所に生活保護受給者を居住させ、利用料を徴収する)」が問題として報じられています。[3]国と地方自治体の施策
(1)国の施策
近年の国の対策は、以下のように自立支援を軸としたものとなっています。(a)自立支援プログラム
自立支援プログラムは、生活保護受給者の自立の助長に関し自立・就労を積極的かつ組織的に支援する仕組みを強化することを目的として、平成17年度から実施されています。この自立支援プログラムを大きく分けると、①就労等による経済的自立の支援、②健康を回復・維持し自分で健康・生活管理を行うことができるようにする日常生活自立の支援、③社会的なつながりを回復・維持し、地域社会の一員として充実した生活を送ることを目 す社会生活自立の支援に分類されます。(b)学習支援の制度化
貧困の連鎖に対する対策として、生活保護世帯の子どもの教育支援が制度化されていまする。まず、「高等学校等就学費」が平成17年4月から制度化され、高等学校の入学料・授業料・通学費・教材代・PTA会費などが生活保護費として支給されるようになりました。また、平成21年7月には、「学習支援費」が創設されました。これは、学習参考書や一般教養図書などの家庭内学習に必要な図書購入費や課外クラブ活動に要する費用に充てるものです。(c)第2のセーフティネット施策
失業者等が直ちに生活保護に至ることなく、いち早く再就職に結びつけられるよう、第1のセーフティネット(社会保険・労働保険)、最後のセーフティネット(生活保護)の間のものとして、第2のセーフティネット施策(総合支援資金貸付制度、住宅手当、求職者支援制度)が、平成21年より整備されています。(2)地方自治体の施策
地方自治体では様々な対策が講じられていますが、ここではその中で近年の代表的なものを取り上げます。(a)自立促進施策
北海道釧路市では、平成17 年5 月より、NPO 法人等と連携した「新しい公共」の考え方による取組を行っています。これは、就労が困難な生活保護受給者に対し、就業体験やボランティア等の社会参加活動等様々なプログラムを用意し、自立を支援するもので、プログラムには、作業所ボランティア(知的障害者施設)、ヘルパーへの同行(介護事業所)、公園管理ボランティア、インターンシップ(リサイクル事業所)などがあります。(b)貧困の連鎖に対する対策
埼玉県は、平成22年10月から、生活保護家庭で育つ約650人の中学3年生を対象に無料の学習教室を始めました。年間予算は約1億1600万円で、生活保護世帯の子どもの全日制高校進学率(平成22年春68%)を5ポイント上げることを目標としました。参加者の高校進学率(平成22年度)は、97.5%となりました。一方、生活保護受給家庭の子どもの高校中退率が全体の2倍以上となっていることから、平成25年度から高校1年生を対象とした学習教室を開く方針です。[4]改革の議論について
表 社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会報告書の内容
生 活 困 窮 者 支 援 体 系 の 確 立 | 新たな相談支援の在り方 |
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就労準備のための支援の在り方 |
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中間的就労の在り方 |
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ハロ-ワークと一体となった就労支援の抜本 強化 |
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家計再建に向けた支援の強化 |
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居住の確保 |
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子ども・若者の貧困の防止 |
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生 活 保 護 制 度 の 見 直 し | 切れ目のない就労・自 立支援とインセンティブの強化 |
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健康・生活面等に着目した支援 |
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不正・不適正受給対策の強化等 | (不正受給対策の強化)
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医療扶助の適正化 |
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地方自治体の体制整備等 | 生活保護費の全額国庫負担について検討する必要があるとの意見があった |
[5]おわりに
平成24年8月10日に、社会保障・税一体改革関連法が成立しました。社会保障制度改革推進法では、生活困窮者対策及び生活保護制度の見直しに総合的に取り組むことが附則に示されています。平成24年11月17日の内閣府行政刷新会議の「新仕分け」では、生活保護について議論され、また、政権交代後の平成25年度の予算編成過程において、生活扶助基準を平成25年度から3年で減額していく方針が示されるなどの動きがありました。生活保護制度の見直しについては、引き続きその動向を注視する必要があります。
※国立国会図書館 ISSUE BRIEF第776号を参考にしました。