テロ対策特措法をめぐる議論は、第168臨時国会における最大の焦点です。
現行法は2007年11月1日に期限切れを迎えますが、参議院で野党が過半数を占める状況で延長の議決は困難と考えられるため、政府は、新法の成立を目指しています。ここでは、テロ対策特措法に関する論点と、新法の政府案の骨子をまとめてみたいと思います。
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国会の事前承認の必要性、法律の有効期間、武器使用の範囲を周辺事態法より拡げるべきか否か、活動実施地域に陸上を含めるか否か、武器・弾薬の補給・輸送を活動から除外するか否か等について議論が行われた。
(1)国会の事前承認の必要性
法案の目的は同時多発テロに関連する国際的なテロ対策の実施に限定されており、将来他の異なる事態には適用されないので、法案をめぐる国会審議が実質的な国会承認の意味を持つとして、事後の国会承認とする。
(2)法律の有効期間
有効期間は2年とする。
(3)武器使用の範囲を周辺事態法より拡げるべきか否か
「自己又は自己と共に当該職務に従事する者の生命又は身体の防護」に限定した周辺事態法の武器使用の範囲を超えて、被災民の支援活動を想定して、「その職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命または身体の防護」にまで範囲が広げる。
(4)活動実施地域に陸上を含めるか否か
活動実施地域に陸上を含む。
(5)武器・弾薬の補給・輸送を活動から除外するか否か
武器・弾薬の補給活動と陸上輸送が除外された。
また、米国の軍事行動の正当化根拠についても議論がある。
(A)テロ集団による大規模テロが自衛権行使の要件である武力攻撃といえるか?
(B)仮に自衛権行使が認められるとして、米国の武力行使が自衛権行使に求められる必要性,均衡性,時間的限度(安保理が必要な措置をとるまでの間に限り行使可)等の各要件を満たすか等の議論である。
政府は、国連安保理決議第1368号(2001年9月12日採択:加盟国の自衛権に対する認識と、テロとの戦いにおいてあらゆる必要な手順をとる用意を表明)等の諸決議により米国の軍事行動と各国の支援活動は国連に認められているとしたが、多数の国際法学者はこれらの決議は武力行使を授権したものではないと解釈している。
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現行のテロの防止・根絶のための活動は、幾つかの種類があり、日本はその中で、海上阻止活動のみに参加している。
●不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom, OEF) ・本土派遣(部隊・将校等):アフガニスタン南部、東部のパキスタン国境付近等を中心としたアル・カイーダやタリーバン勢力の掃討作戦等(約20ヶ国参加)・海上阻止活動(Maritime Interdiction Operation, OEF-MIO):インド洋におけるテロリスト及び関連物資の海上移動の阻止、抑止の活動(8ヶ国参加) ●国際治安支援部隊(international Security Assistance Force, ISAF)(37ヶ国参加) ●地方復興チーム(Provincial Reconstruction Team, PRT)(27ヶ国参加) |
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今第168臨時国会では、以下のような点が議論されると考えられます。
1.国会による事前承認・国会への情報開示 政府は多国籍軍の活動に支障を及ぼすとの理由から、活動内容の詳細な部分については公表を控える場合が多かったが、(1)情報開示により国会報告の内容を拡充する、(2)国会報告の定期化等が議論されると考えられる。2.国連による活動との関係 民主党小沢代表は、自衛隊の活動は国連の枠組みで行われるべきと主張している。 安保理決議第1368号や第1776号(2007年9月19日採択:(1)ISAF及びOEFを含む持続的な国際的努力の必要性を強調し、(2)ISAF及びOEF-MIOを含むOEFへの貢献に対する評価を表明し、(3)ISAFに対してOEFと協議をしつつ活動を継続することを要請(賛成14、反対0、棄権1(ロシア、議論を尽くしていないという理由)))など、関連する国連の諸決議をめぐる議論が予想される。 学者の間では、海上阻止活動は国際法上認められた公海上での海上警察活動であり、海上警察活動に従事する外国軍艦に対する給油は安保理決議の有無にかかわらず許され、各国の判断だけで可能である(安保理決議は国際世論を示すものとして国際的支持の有無の判断材料の一つと考えるべきである)、との見解もある(※日本経済新聞平成19年10月9日)。3.給油等補給活動に代わる我が国の貢献策 アフガンにおける人道支援やPRTへの参加、ISAFへの参加、ISAFへの後方支援(物資輸送など)等が給油等補給活動に代わる貢献策として挙げられる可能性がある。 ただし、日本がISAFに参加すれば、一定の範囲で任務遂行のため武器使用を迫られる場合があり得る。 |
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政府が提案する新法の骨子は、以下の通りです。
1.法律の目的 テロ対策海上阻止活動への補給支援により、国際的なテロリズムの防止・根絶のため国際社会の取組に引き続き寄与し、我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資する。 (※国連安保理決議第1368号等を受けて、国際社会が国際的なテロリズムの防止・根絶のための取組を継続し、 その一環として、9・11テロ攻撃による脅威の除去に努めるための活動を実施していること, 第1776号が、我が国のテロ対策特措法に基づく活動による貢献に対する評価を表明し、同活動の継続の必要性を強調していること等の認識を示す。)2.基本原則 ●武力による威嚇又は武力の行使を禁止する。 ●いわゆる非戦闘地域要件を満たすインド洋及びその上空並びにインド洋沿岸国領域等での活動に限定する。 ●外国での活動は、当該外国の同意がある場合に限る。3.実施する活動 補給支援活動(テロ対策海上阻止活動の円滑・効率的な実施に資するため、自衛隊がテロ対策海上阻止活動に係る任務に従事する艦船に対して実施する給油又は給水に係る活動) (1)防衛大臣が実施要項を定め、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊等に実施を命令する。 (2)法律・実施計画の要件を満たさなくなった場合等における活動の中断・一時休止等を規定する。4.実施計画 補給支援活動特措法に基づき、実施計画(内閣総理大臣が閣議決定する。)が定められ、これに基づき防衛大臣が実施要項を定める。 法律には、(1)基本方針、実施区域の指定に関する事項等,(2)派遣される自衛隊の部隊等の規模、構成、装備、派遣期間等を定める。5.国会報告 実施計画の決定又は変更があったときは、その内容の報告、活動が終了したときは、その結果の報告を義務付ける。 (本法案においては、(1)活動の種類及び内容を補給のみに限定、(2)派遣先の外国の範囲を含む実施区域の範囲についても法定する結果、本法案が国会審議を経て可決・成立すれば、その活動の実施に当たり重ねて国会承認を求める必要はないと考えられるため、国会承認に係る規定は置かれていない。)6.法律の期限 施行から1年を経過した日に失効する。ただし、1年以内の期間を定めて延長可能とする。 |
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2007.10.19