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2008.09.30

Topics No.10: 地球温暖化対策における経済的手法について

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1. 定義

二酸化炭素等の温暖化ガスの排出量を削減する仕組みとして排出枠取引(emission trading、排出権取引、排出量取引ともいいます。)があります。排出枠取引は、温暖化ガスを排出している国や企業が、与えられた排出枠の一部を他の国や企業に有償で譲渡する取引をいいます。  

2. 効果

この取引自体によって直接、温暖化ガスが減少するわけではありませんが、排出量の削減にかかるコストが各国(又は企業)によって異なるため、排出量の削減にかかる費用を全体として抑えることができるというメリットがあります。 例えば、(1)各国が30単位の温暖化ガスを削減する義務を負う、(2)1単位の削減にA国は2,000円かかり、B国は10,000円かかる(A国より温暖化ガス削減の余地が小さく、削減にかかる費用が高い)、(3)B国は温暖化ガス削減のための技術開発等により20単位の削減を行ったが、残り10単位の削減が必要である、という場合に、B国がこの10単位を削減するには100,000円(=10,000×10)の費用がさらにかかることになります。ところが、この10単位の削減をA国に任せる(=10単位の排出枠をB国がA国から購入する)場合には、A国では20,000円(=2,000×10)の費用で温暖化ガス10単位を削減することができます(B国は排出枠が10単位分増加したため、削減する必要はなくなります。)。したがって、A国とB国を合わせて80,000円のコストを節約することができることになります。 このとき、温暖化ガスの排出枠が1単位当たり10,000円未満であれば、B国は自国の技術開発等によって温暖化ガスを削減するよりも排出枠を購入したほうが有利になります。他方、A国から見れば、排出枠1単位当たり2,000円超であれば、排出枠を譲渡して1単位を削減したほうが有利になります。したがって、排出枠の価格は2,000円超10,000円未満となります。 仮に排出枠の価格が1単位当たり6,000円だったとすると、B国は残り10単位を削減するために100,000円かかったはずであるところ、排出枠購入のための60,000円の支出で済み、40,000円のコストを節約することができました。他方、A国は排出枠の譲渡代金60,000円を得て、20,000円の費用をかけて10単位の温暖化ガスの排出量を削減したため、40,000円の利益を得たことになります。このように、取引の両当事者が利益を得る点が排出枠取引のメリットであると言えます。  

3. 現状・意義

このような排出枠取引のうち国際的な取引は、1997年に採択され、ロシアの批准により2005年に発効した京都議定書に定められています。国内における排出枠取引については、前提として企業や業界団体の排出枠を設定する必要がありますが、排出量のキャップをはめるものであるとして産業界が反対しており、現時点では国内排出枠取引は実現していません。京都議定書における約束期間は2008年4月に始まっていますが、2008年10月からようやく国内排出枠取引制度が試行的に実施される予定です。そこでは、企業が自主的に削減目標を設定し、目標を達成しなくても罰金が課せられない、というかなり緩やかなものになる模様です。現状のように産業界が自主行動計画を立て、政府がフォローアップをするにしても温室効果ガス削減に向けての技術革新には限界があると考えられます。社会全体の費用を抑えながら温室効果ガスを削減するために、排出枠取引の本格的な導入を真剣に検討すべき時期に来ていると考えます。
温室効果ガスを削減し、京都議定書に定められた日本の数値目標(1990年対比で温室効果ガス6%削減)を達成するための一つの方策として、温室効果ガスを発生する化石燃料等を輸入、製造、販売、又は消費した者に対して環境税を課税し、化石燃料等による温室効果ガスの発生を抑制することが考えられます。  

1. 環境税の導入状況

フィンランドで1990年に導入された環境税は、その後、オランダ、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、イタリア、イギリスのヨーロッパ諸国で炭素税、気候変動税等として採用されています。各国は、環境税を導入したことにより一定程度の温室効果ガスの削減効果があったと評価しています(環境省HP PDF書類)。なお、イギリスにおいては、気候変動税(Climate Change Levy)が課税されますが、政府との間で温室効果ガス削減に関する気候変動協定を締結した場合、気候変動税率が80%軽減されます。気候変動協定には法的拘束力はありませんが、協定に掲げられた削減目標を達成できなかった場合、気候変動税の税率軽減メリットを享受することができなくなります。また、環境税による税収を企業が負担する国民保険料に充当することで産業界に還元しています。  

2. 日本での環境税の検討状況

「低炭素社会づくり行動計画」(2008年7月29日閣議決定)は、「本年秋に予定している税制の抜本改革の検討の際には、道路財源の一般財源化後の使途の問題にとどまらず、環境税の取扱いを含め、低炭素化促進の観点から税制全般を横断的に見直し、税制のグリーン化を進める。例えば、自動車、家電製品、住宅建築について、温室効果ガス排出を抑制するインセンティブとしての税制の活用について検討を行う」としています。環境省の中央環境審議会では専門委員会を設け、かかる税制のあり方について技術的専門的な見地から調査・分析を進めています。  

3. 環境税のメリット

環境税のメリットとして以下のものが挙げられます。 (1) 企業は、温室効果ガスの排出削減費用が環境税よりも低ければ排出量を削減し、削減費用が環境税よりも高ければ環境税を支払う選択をすると考えられるので、企業は柔軟に対応することができるとともに、全体として、温室効果ガスの単位当たりの削減費用を低く抑えることができる。 (2) 自主行動計画や排出権取引に参加しない中小企業についてもカバーされる。 (3) 公平性が確保されるとともに、制度の確実性にも問題がない。  

4. 環境税のデメリット及びそれへの対応

環境税については、どの程度の税率を設定することで数量目標を達成できるか不透明である、また、国際競争力を阻害する、というデメリットが指摘されます。しかしながら、第一の問題については、環境税は、温室効果ガス削減に向けての方策の唯一のものではなく、現行の産業界の自主行動計画のフォローアップや、京都メカニズム(先進国での共同実施、途上国でのクリーン開発メカニズム、国際排出枠取引)の活用、検討されている国内排出枠取引等、他の手段と併用されることが想定されること、税率はそのつど変更できること、から大きな問題ではないと考えます。また、第二の問題については、(1)原則として課税するとしつつも、自主行動計画を策定していれば減免し、自主行動計画が達成できない場合には課税するといった仕組みや、(2)法人税減税や温室効果ガス削減施策に使う等により、税収を産業界に還元すること、により、産業界の理解を得ることも可能であると考えます。

1. 概要

政府は2005年4月に策定した京都議定書目標達成計画(2006年7月に一部変更)を2008年3月に改定しました。これによると、2010年におけるエネルギーの使用に伴い発生する二酸化炭素(エネルギー起源二酸化炭素)の目安を1,076~1,089百万t-CO2(基準年(1990年)対比で+1.3~+2.3%)としています。産業部門(工場等)、業務その他部門(オフィスビル、小売店舗、病院、学校等)、家庭部門、運輸部門及びエネルギー転換部門(発電所、石油精製施設等の自家消費等)のそれぞれの目安は以下のとおりです。なお、京都議定書における第一約束期間が2008年から2012年であるため、その真ん中の2010年の目安を設定しています。  
基準年(1990年) 2006年確定値 2010年の目安
産業部門 482 460 424~428
業務その他部門 164 229 208~210
家庭部門 127 166 138~141
運輸部門 217 254 240~243
エネルギー転換部門 68 77 66
エネルギー起源CO2 合計 1,059 1,186 1,076~1,089

(単位:百万t-CO2)

  目標達成計画策定前の1997年(京都議定書が採択された年)に、既に日本経済団体連合会が自主行動計画を策定しました。2008年3月末時点で、産業部門50業種、業務その他部門32業種、運輸部門17業種、エネルギー転換部門4業種が定量目標を持つ目標を設定し、審議会等の評価・検証を受けています。このような自主行動計画を策定させ、それを遵守させるというアプローチを取ることにより、業界が自発的・積極的に温室効果ガスを削減する、というのが産業界の意見です。  

2. 問題点

自主行動計画は自主的な取組みである以上、(1)対象業種にとって、温室効果ガスを削減するインセンティブが働くのか、また、(2)計画を遂行することができなかったときに法的責任が認められないという点が最も大きな問題点として指摘されます。この指摘に対しては、役所から業界に対して厳しく指導しているという反論がなされますが、経済産業省所管の業種の中の、2007年度の目標達成業種25業種のうち、自主行動計画の目標を引き上げた業種は21、実績水準以上に自主行動計画の引上げを行った業種は9にとどまります。 また、上記の点以外にも以下のような問題点が指摘されています。 (1) 公立の病院や学校について、地方公共団体が管轄していることもあり、自主行動計画は提出されていません。 (2) 業種(業界団体)として自主行動計画が提出されていても、当該業界団体に入らない企業(中小企業等)は対象となりません。但し、中小企業に関し、2008年10月を目途に、大企業からの資金・技術等の提供により中小企業の排出量の削減を促進する制度の導入が検討されています。 (3) 家庭部門については自主行動計画でコントロールすることができません。 (4) 自主行動計画は、温室効果ガスの総排出量を数値目標とせず、原単位(生産量当たりの排出量)やエネルギー消費量を目標とすることも認められており、この目標をクリアしても生産量の増加により結果として温室効果ガスの総排出量が増える可能性があります。なお、経済産業省は、総排出量以外の数値を目標とする業種に対して総排出量の数値目標を提出するよう働きかけています。 (5) 自主行動計画の評価・検証制度としてのフォローアップにおいて検討される実績値は、厳密な意味での第三者の検証を受けた数値ではなく、各業種の提出した数値を基にしています。  

3. 結論

このように、産業界の自主性に委ねた自主行動計画は、一定の成果が見られるものの、京都議定書における国としての数値目標(基準年(1990年)対比で▼6%))達成はかなり困難であると考えられます。したがって、国際排出枠取引によりクレジットを取得するなどの京都メカニズムの活用だけでなく、国内排出枠取引の本格的な導入や環境税といったその他の方策を真剣に検討すべきであると考えます。