平成21年4月24日、参議院本会議において「消防法の一部を改正する法律案」が可決、成立しました。この改正は、近年深刻な社会問題となっている、いわゆる救急患者の「たらい回し」、つまり、緊急搬送において受入医療機関の選定が困難である事案の解消を目指すものです。
消防庁の調査によれば、平成19年中の救急車の現場到着から病院収容までの平均所要時間は26.4分であり、10年間で6.5分遅延しています。救急自動車の現場到着時間が10年間でほぼ一定のことを考えると、受入医療機関の選定に時間を費やしていることが推察されます。実際、重傷以上傷病者のケースで、医療機関への照会回数が4回以上行われた事案は、14,387件で、全体の3.9%を占めています。
この主な原因として、救急隊が医療機関に受入要請を行う順番や、どの医療機関に搬送するか等について、明確なルールが定められていないことがあげられます。
そこで、今回の改正では、都道府県が、傷病者の搬送及び受入れに関する基準(実施基準)を策定し、公表しなければならないことになりました(第35条の5第1項、第5項)。
具体的には、(1)傷病者の状況に応じた適切な医療の提供が行われる医療機関のリスト、(2)消防機関が(1)のリストの中から搬送先医療機関を選定するための基準、(3)消防機関が医療機関に対し傷病者の状況を伝達するための基準、(4)搬送先医療機関が速やかに決定しない場合において、傷病者を受け入れる医療機関を確保するために、消防機関と医療機関との間で合意を形成するための基準などが、策定され公表されることになります。
実施基準の策定と公表の主体が都道府県とされているのは、消防業務は市町村単位で実施されているものの市町村を越えた救急搬送が日常的になされていること、医療提供体制は、都道府県が医療計画に基づき整備していることの両者の現状を踏まえた上で、第一義的な責任主体として都道府県が適当であると考えられたためです。それぞれの実施基準は、都道府県に設置される「協議会」(消防側、医療側、責任主体である都道府県、第三者的な立場の学識経験者によって構成されます)から意見をうけることとなっており、この協議会には、さらに時勢に応じた基準改定の意見具申も求められています。この協議会は、法律上は定期的に開催されることにはなっていませんが、地域ごとの救急医療体制の変化に的確に対応していくことが求められます。
救急搬送・受入れの問題は、国民の生命に直接関わる極めて重要なテーマであり、複合的な政策の組み合わせによる対応が不可欠な分野です。今回の改正も、救急搬送・受入れ問題に対する1つの対策ではありますが、より本質的な観点からは、救急医療に従事する医師・医療機関数の確保や救急隊員の専門性の向上といった中長期的対策も課題となります。救急患者さんの救命を至上命題として、消防と医療がそれぞれに質を高めながら的確に連携できる体制を推進していきたいと思います。
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2009.04.27