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2010.02.16

Topics No.14: 教育費の負担軽減政策について

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1.はじめに

平成21年8月に行われた衆議院議員総選挙において、各党のマニフェストには、幼児教育の無償化や大学の奨学金の拡充、高校の無償化など様々な教育費の負担軽減策が掲げられました。これは、厳しい経済状況が続く中、教育費の負担軽減が国政の重要課題として認識されるようになってきたことの現れでもあります。 また、川端達夫文部科学大臣は、就任会見で、平成22年の通常国会に無償化のための法案を提出し、同年4月から実施する考えを示しました。 そこで、今回のトピックスでは、教育費の負担軽減策、特に高校教育の無償化について考えていきたいと思います。

2.論点の概観

(1)支援対象の範囲について 高校教育の無償化の中心的な論点として、まず、支援対象の範囲をどのように考えるかという問題があります。 この点、無償で高校教育を受けられることを権利として捉え、支援対象を低所得世帯に限定しないで、すべての生徒を広く支援すべきであるという考え方があります。これは、民主党のマニフェスト及び新政権の基本的立場です。この背景には、子どもの成長を社会全体で支え合うという考え方や、無償化の国際的な潮流があると言われています。例えば、OECD加盟国の中で、高校教育が無償とされていないのは、日本の他、韓国・イタリア・ポルトガルだけとなっています。 一方、(1)義務教育でない高校における学習について、受益者に全く負担を求めないとすれば、進学しない者に対して公平性を欠くことや(2)現下の厳しい財政状況から考えて、低所得者世帯に支援対象を限定すべきであるという考え方もあります。これは、自民党のマニフェストの基本的立場です。 経済的に困窮している世帯では、すでに授業料の減免措置を受けているので、授業料のみが無償化されても、新たに負担が軽減されるわけではありません。こうした世帯にとっては、授業料以外の学校教育の費用が大きな負担となっています。このため、低所得世帯向けの奨学金を創設する、充実させることが重要であり、限られた財源のもとで、教育格差の是正を行うには、やはり低所得者世帯に支援対象を限定し、厚い支援を行うべきではないでしょうか。 (2)私立高校への影響について 公立高校の授業料を無償化すると、私学の経営が困難に陥るのではないか、という点も問題とされています。 この点、民主党のマニフェストでは、私立高校生のいる世帯に対しても、公立高校と同額を支給し、さらに低所得世帯に対しては、支給額を倍の24万円とするとしています。 これに対して、私立学校の関係者からは、無償化といっても授業料の高い私立学校では有償の部分が残ってしまい、授業料の支払いが必要となることや現在の経済状況を考えると、「無償」の公立高校への進学を希望する生徒が急増して、私学の経営が行き詰まることに強い懸念が示されています。 この他、高校中退者を受け入れているフリースクールや外国人学校などが支援対象となるのかについても、懸念の声があがっています。  

【自民党・民主党のマニフェストの比較】

自民党 民主党
子育て関係 ●3~5歳児の教育費用は段階的に軽減し、平成24年度には完全に無償化する。 ●中学卒業までの子ども1人当たり年31万2,000円(月額2万6千円)の「子ども手当」を創設する。
高校 大学 関係 ●低所得者の授業料無償化を行う。 ●修学援助制度を創設する。 ●新たな給付型奨学金を創設する。 ●公立高校生のいる世帯に対し、授業料相当額を助成し、実質的に授業料を無償化する。 ●私立高校生のいる世帯に対し、年額12万円(低所得世帯は24万円)の助成を行う。 ●希望者全員が受けられる奨学金制度を創設する。

3.まとめ

高校の授業料を無償化するには、新たに4500億円の予算が必要であると考えられており、実際に文部科学省の平成22年度予算概算要求では4501億円が要求されました。家庭の教育費の負担を減らし、教育の機会均等を図るという趣旨に大きな異論はありませんが、問題は、この無償化の財源をどこから捻出するかです。 民主党の看板政策である「子ども手当」でさえ、所得制限の議論が出るなど、財源の確保に苦心しています(「子ども手当」については、マニフェストの試算で5.5兆円(初年度は2.7兆円)が必要とされています)。 このように厳しい財政状況の中、高校の授業料の無償化を行うには、なぜ高校かということの説得的な説明と子ども手当との関係性を含めた教育の全体像や展望を政府が明確に打ち出すことが必要です。冒頭で述べたとおり、政府は平成22年の通常国会に無償化のための法案を提出する予定ですが、これらについて慎重かつ十分な議論を重ねることが重要です。