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2010.06.08

Topics No.16: 政府の郵政民営化への対応

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1.政府の郵政民営化への対応

平成19年10月1日、郵便事業について持株会社である日本郵政と4つの事業会社が誕生し、いわゆる「郵政解散」などで大きな争点となっていた郵政民営化が本格的にスタートしました。 郵政民営化について民主党は、平成21年8月の衆議院議員総選挙時のマニフェストで、①国民生活の利便性が低下している、②地域社会で金融サービスを受けられなくなる可能性がある、③事業を担う4社の将来的な経営の見通しが不透明であると批判し、「郵政事業を抜本的に見直す」ことを公約に掲げていました。 政権交代後の平成21年10月20日、政府は、郵政民営化法の廃止も含めた下に示す「郵政改革の基本方針」を閣議決定し、これに沿う形で平成22年4月30日には「郵政改革法案」を国会に提出するに至りました。  
「郵政改革の基本方針」(閣議決定、平成21年10月20日)
1 郵便、郵便貯金、簡易生命保険の基本的サービスを全国の郵便局で一体的に利用できるようにする。
2 郵便局ネットワークを、地域や生活弱者の格差を是正するための拠点として位置付け、地域のワンストップ行政の拠点としても活用する。
3 郵貯・簡保のユニバーサルサービスを法的に担保するほか、銀行法、保険業法等にかわる新たな規制を検討する。地域金融や中小企業金融にとっての役割に配慮する。
4 現在の持株会社・4分社化体制を見直し、経営形態を再編成する。株式会社化する。
5 再編成後の日本郵政グループにさらなる情報開示と説明責任の徹底を義務付ける。
6 郵政民営化法の廃止を含め、所要の法律上の措置を講じる。
 

2.郵政改革法案の問題点・課題について

(1)経営形態について 平成19年10月1日、持株会社である日本郵政と4つの事業会社(いわゆるゆうちょ銀行、かんぽ生命、郵便事業会社、郵便局会社)が誕生し、5社体制で郵政民営化はスタートしました。分社化には、(1)1つの事業で生じた損失が他の事業に影響を及ぼすことを避けてリスク遮断が可能になること、(2)業績評価が明確になり経営責任も明確化できること、などのメリットがあります。民営化の考えの下では、分社化を通じ、郵政各事業の自立化・合理化が促進されることが期待されたのです。 これに対し、今回の法案では、この分社化によって三事業一体の運営が損なわれ、利便性が低下したとの見解を重視し、事業会社の統合を行うこととしています。すなわち、平成23年10月1日に、日本郵政が郵便事業会社、郵便局会社の業務や権利・義務を合併により承継するとされており、郵政事業の経営形態は、5社体制から3社体制へ移行することとされています。 【問題点・課題】 政府のこのような経営形態の見直し案については、(1)利便性の低下は、分社化・民営化の失敗ではなく、経営技術で解消できる問題であるのではないか、(2)経営の合理化や収益力向上がおろそかになり、民営化以前のように金融の収益に依存する組織に戻ってしまうのではないか、などの疑問があります。更に、政府案では、将来にわたって金融二社(いわゆるゆうちょ銀行、かんぽ生命)の利益を親会社である日本郵政が吸収する仕組みになっているため、金融二社の利益が郵便局ネットワークの維持という名目で、既得権を守るために使われるのではないか、との指摘もあります。 (2)政府の出資比率 今回の法案では、政府は、日本郵政株式会社の3分の1を超える株式(議決権)を常時保有することとされています。これは、現行制度も同様ですが、現行制度では、政府の保有する株式の割合はできるかぎり早期に減ずる(平成29年9月末までに全株式を処分して完全民営化する)ものとされているのに対し、改正案では特段の規定は設けられていません。 【問題点・課題】 この政府保有の株式を処分していく期限について定めのないことに関連して、(1)政府の全額出資が長期化しかねないこと、(2)民間との競争条件が整わず、民間の業務活動を不公正に圧迫すること、(3)日本郵政が「民」なのか「官」なのか不明確であり、このような「半官半民」の形態のメリットも明らかではないこと、などの問題が指摘されています。 (3)金融を含むユニバーサルサービスの義務付け 現行制度の下では、郵便についてはユニバーサルサービス義務がありますが、金融については、他社との競争条件の対等化に配慮して、ユニバーサルサービス義務は課されていません。 これに対して、今回の法案では、過疎地等における金融の取り扱いに対する安心感を高めるなどとして、日本郵政に対して、郵便・銀行・保険の3つのサービスを郵便局で一体的に、あまねく全国で利用できるようにする責務を負わせています。 【問題点・課題】 金融のユニバーサルサービスを義務付ける必要性や、義務付けの範囲については、これを疑問視する様々な指摘が行われています。 新聞などのメディアは、「過疎地対策の負担を郵便貯金の規模拡大でまかなうのはおかしい」、「金融過疎で困っている地域を特定したうえで、他の金融機関を含めて解決策を考えればいい」と論じています。また、民間事業者からは「民間金融機関の店舗・ATM等のネットワーク網は充実しており、全国1,778市町村中で民間金融機関の存在しないのは16町村にとどまっており、(世帯数は約9,200世帯、人口は約20,000人)、郵便貯金事業の制度目的・意義は乏しくなっている」(全国銀行協会)、「10万を超える生命保険会社の拠点・代理店と100万名を超える募集人が全国を網羅しており、生命保険において、金融過疎問題は発生していない」(生命保険協会)と指摘しています。 (4)郵貯・簡保の限度額の引き上げ 現在、郵便貯金の預入限度額は1000万円まで、簡易保険の加入限度額は1300万円までと、政令で規定、制限されています。政府は、今回の法案の成立に合わせて、郵便貯金の預入限度額を2000万円に、簡易保険の加入限度額を2500万円に引き上げることを予定しています。 【問題点・課題】 この限度額の引き上げについても、国内外からさまざまな懸念が示されています。 国内においては、「政府が関与し続けるとすれば、ペイオフで保証される元本の1000万円を超えて預けても安心であると利用者が受け止めるため、中小金融機関から郵便貯金に資金シフトが起こる可能性があり、地域の金融機関から融資を受けている中小企業への悪影響が懸念される」など、中小金融機関、中小企業への影響を心配する意見が主張されています。同時に、(1)資金量が増えても運用が適正にできるのか、また、(2)かつての財政投融資制度の事実上の復活になるのではないか、などの指摘もあります。 海外からの意見としては、平成22年3月に、アメリカ・EUの駐日大使が連名で「郵政改革について民間との公平な競争条件を確保し、WTO協約違反にならないよう配慮を求める」という内容の書簡を担当閣僚に送付しました。また、アメリカ合衆国通商代表部は、限度額の拡大について、日本郵政グループに競争上の優遇措置を与えるものと指摘し、海外企業との対等な競争条件を確保する前に日本郵政グループが事業を拡大することに懸念を示しています。
 

3.国会での十分な審議が必要

郵政民営化が議論となった小泉純一郎内閣時には、衆議院だけでも100時間を超える審議が行われ、かつ、解散により広く国民に民意を問いました。一方、民主党・国民新党の連立政権下では、わずか6時間余りの衆議院総務委員会の質疑を経たのみで、委員会・本会議ともに強行採決を行いました。 郵政民営化は、規制緩和、「官から民へ」という構造改革の中心的・象徴的な政策です。その意味で、郵政事業への考え方は、時の政権の財政政策や経済政策を表すだけでなく、官と民のあり方や政府の(適正)規模なども表しているということができます。 このような重要な意義をもつ郵政事業については十分に議論を尽くすことが必要です。実際、郵政改革法案をめぐっては、これまで述べてきたようにさまざまな論点があり、それぞれの立場から意見が出されています。これらの論点について、国会の場で検証・検討を重ねていかなければなりません。慎重な審議と深い議論が求められます。   ※ISSUE BRIEF第680号(国立国会図書館、2010年6月)を参照しました。
 
Topics No.15: 普天間移設問題について(2010/02/16)

1.はじめに

沖縄県の米軍普天間飛行場の移設が最大の争点となった名護市長選挙の投開票が2010年1月24日に行われ、名護市辺野古への移設に反対する稲嶺進氏が初当選を果たしました。鳩山由紀夫首相は、2009年11月14日に、記者団との懇談で名護市長選について触れ、市長選結果を見て方向性を定めていくと述べており、普天間基地の移設問題は重要な局面を迎えようとしています。そこで、今回のトピックスでは、普天間基地移設問題について考えてみたいと思います。
 

2.在日米軍の概要と沖縄

現在、日本には85の米軍基地(米軍専用施設)が存在しており、米国防省によれば、在日米軍人員数は、陸軍が2,594人、海軍が3,779人、空軍が12,711人、海兵隊が16,881人(2009年9月30日時点)となっています。 在日米軍の意義について、防衛省は、米軍による施設・区域の安定的な使用は、日米の共同対処のために重要であり、在日米軍は抑止力としても機能し、米軍の来援の基盤となるものであり、我が国の防衛及びアジア太平洋地域の平和と安定の維持にとって不可欠であると説明しています。 在日米軍の特徴としては、まず、(1)戦力が海軍、空軍と海兵隊を中心に構成されていることがあげられます。これは冷戦下、米国がソ連等の侵攻に備えて、大規模な陸軍を西ドイツ(当時)と韓国に配備し、一方、在日米軍には有事の際、前線部隊を増援する役割を担わせていたことに由来します。 また、(2)戦力が沖縄県に集中していることも在日米軍の特徴です。現在、在日米軍基地の約74%が沖縄県に集中し、沖縄本島の約18%が米軍基地に占められています。これは、(3)沖縄が1972年まで米国の統治下にあったという歴史的経緯と、(4)沖縄の戦略的な重要性によるものです。すなわち、近代戦においては、時間と距離、近接性が重要な意味をもちますが、沖縄は、台北まで633km、上海まで835km、ソウルまで1,260kmの位置にあり、アジア太平洋地域のいずれにも短時間で展開可能である点で、大きな地政学的意義・利点を有するのです。
 

3.SACO最終合意と普天間基地移設問題

前述のとおり、沖縄には米軍基地が集中し、市街地にも隣接しているため、沖縄県民は、騒音、環境汚染、米兵の犯罪等の問題に悩まされ続けてきました。1995年には、海兵隊員による少女暴行事件が発生し、沖縄の怒りは頂点に達しました。大規模な県民集会が開催され、日米両政府に基地問題の解決を強く求めました。 これに対し、日米両政府は、「沖縄に関する特別行動委員会」(Special Action Committee on Okinawa:SACO)を設置し、約1年に渡り、沖縄県に所在する在日米軍施設・区域に関わる諸課題を協議しました。このSACOの最終報告(1996年12月2日)において、「今後5ないし7年以内に、十分な代替施設が完成し運用可能となった後、普天間飛行場を返還する」ことが合意され、以後、普天間基地の返還条件である「代替施設」をどうするかという、現在まで続く移設問題が議論されることとなりました。 移設先について日本政府は、キャンプシュワブに近い名護市辺野古沿岸域とする案を提示しましたが、移設をめぐって沖縄の世論は大きく割れました。太田昌秀沖縄県知事(当時)が県内移設に反発し、また、移設予定地の名護市で行われた住民投票では、移設反対が多数を占めるに至りました。一方で、現実的な解決策として受け入れる住民や新基地の経済効果を重視する県民もいました。 そのような状況の中、1998年11月の県知事選で、空港の軍民共用化を条件に移設受入を表明していた稲嶺恵一氏が、海兵隊の撤退を主張していた現職の太田氏を破って当選すると、稲嶺氏は、翌年11月、移設候補地を名護市辺野古沿岸域に決定した旨を表明しました。その翌月には、岸本建男名護市長も移設の受け入れを表明し、普天間基地の返還は大きく進展するかと期待されましたが、自治体との受入条件をめぐる意見の相違や根強い建設反対運動も続けられ、普天間基地の返還は、SACO最終報告から14年余が経過した今も実現されていません。

4.在日米軍再編交渉と普天間基地移設問題

2001年に誕生したアメリカのブッシュ政権は、米軍の変革を推進し、例えば、ドイツと韓国においては、駐留米陸軍を削減し基地を整理統合することが決定されました。この流れの中で、2003年初頭から日米間でも在日米軍の再編交渉が行われ、普天間基地の移設問題、特に具体的な移設計画に注目が集まりました。 当初、日米両政府は、代替施設を名護市の大浦湾からキャンプシュワブ南沿岸部の地域にL字型に建設することで合意しました。これに対して、地元自治体や住民からヘリが集落上空を飛行することに強い懸念が示されたので、日本政府は計画を微修正し、集落上空の飛行を回避するため、離陸用と着陸用の2本の滑走路をV字型に建設する案を示して合意に至りました(2006年4月)。同月には、在沖海兵隊のグアム移転費に関する日米間の交渉もまとまり、総額102.7億ドルのうち、約6割にあたる60.9億円を我が国が負担することが決定されました(「再編実施のための日米のロードマップ」)。