1.我が国の太陽光発電の現状 (1)太陽光発電の概要について 太陽光発電とは、太陽電池を利用して太陽光エネルギーから電気を発生させることをいいます。太陽光発電は、風力発電やバイオマス発電等と同じく、法律(新エネルギーの利用等の促進に関する特別措置法)によって新エネルギー、すなわち、「技術的に実用化段階に達しつつあるが、経済性の面での制約から普及が十分でないもので、石油代替エネルギーの導入を図るために特に必要なもの」に指定されています。 この太陽光発電は、発電過程において全く排出物を出さないクリーンなシステムであり、エネルギー戦略や地球環境保全の観点からも極めて重要な意味をもっています。また、産業の裾野が広く雇用創出効果が見込めることにも期待が寄せられています。 (2)太陽光発電の特長について 太陽光発電の特長としては、(1)エネルギー源が太陽光であるため、基本的には設置する地域に制限がなく、導入しやすいシステムであるといえること、(2)屋根・壁などの未利用スペースに設置できるため、新たに用地を用意する必要がないこと、(3)山間部や農地など送電設備のない遠隔地の電源として活用できること、(4)災害時などに非常用電源として使えること、などがあげられます。 (3)太陽光発電の導入量について 我が国は、太陽光発電の導入量について、1997年から2004年までの間、世界第1位を維持していました。この背景には、(1)電力会社が自主的な取組として、1992年より余剰電力分の購入を開始していたことや(2)1994年度に政府が住宅用太陽光発電システムの導入費用を補助する制度を開始したことにより、導入量が伸びたことが指摘されています。 しかし、ドイツやスペインが、再生可能エネルギーによる電力を高い価格で買い取る「固定価格買取制度」の開始により導入量が急速に伸びたことや我が国で補助金制度がいったん廃止されたことなどが影響し、2008年は世界第3位へ低下しています。 |
2.太陽光発電の導入政策 (1)RPS(Renewables Portfolio Standard)制度について 新エネルギーの活用を進めるためには、導入段階での支援が必要とのことから、2002年6月に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」が公布され、これに基づいて2003年4月に、RPS制度が導入されました。RPS制度とは、電気事業者に新エネルギー等から発電された電気を一定量以上利用するよう義務付ける制度をいいます。 このRPS制度に対しては、太陽光発電への十分な導入インセンティブが働きにくいことや、義務量が少なすぎることなどが問題として指摘されています。 (2)「低炭素社会づくり行動計画」について 2008年7月に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」において、政府は、「太陽光発電世界一の座を再び獲得することを目指し、太陽光発電の導入量を2020年に10倍、2030年には40倍にすることを目標として、導入量の大幅拡大を進める」としました。また、「価格については、3~5年後に太陽光発電システムの価格を現在の半額程度に低減することを目指す」としています。 この行動計画を受けて、2009年1月には、一定の条件を満たした太陽光発電システムに対して、出力1kWあたり7万円の補助が行われることとなりました。 (3)太陽光発電の新たな買取制度(2009年11月実施)について 2009年7月1日に成立した「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」に基づいて、経済産業大臣の「告示」により、制度設計が行われ、11月1日から新たな買取制度の運用が開始されました。 新たな買取制度では、太陽光発電システムで作られた電力のうち、余剰電力が買取対象となっており、この余剰電力を電力会社は、所定の価格で買い取るように義務付けられています。 また、買取費用については、2011年4月以降、電力会社が電気の使用量に応じて全ての電力利用者の料金に太陽光発電促進賦課金(太陽光サーチャージ)として転嫁する、全員参加型の制度設計となっています。 我が国の買取制度は、ドイツやスペインとは異なり、買取対象を余剰電力に限定しており、発電目的で設置される発電設備は制度の対象外ということになっています。これは、国民負担を極力抑え、太陽光発電設備の設置者に対して節電インセンティブを付与しようとしたためです。 (出典:経済産業省「「現行の太陽光発電の新たな買取制度」) |
3.我が国の太陽光発電の課題・論点 – 全量買取制度をめぐる議論について (第174回国会で審議されていた「地球温暖化対策基本法案」には、電気事業者が一定の価格、期間および条件の下で、電気である再生可能エネルギーの全量について調達するという、「再生可能エネルギーに係る全量固定価格買取制度」の創設が盛り込まれていました。 この買取制度は、現在の太陽光の余剰電力に限定した買取制度を強化、拡充するものであり、今後の再生可能エネルギーの推進施策の中心となるものとして期待されています。 全量買取制度については、太陽光発電が大量導入された場合の(1)買取コストの国民負担、(2)電力の系統安定化対策についてどのように考えるべきかなどが議論されています。 (1)買取コストの国民負担について まず、負担の方法については、(1)現行制度と同様に直接電気料金に上乗せする方式と、(2)エネルギー間の公平性に着目して、税その他の方法により広くエネルギー消費全般で負担する方式が考えられます。前者は、再生可能エネルギー由来の電力供給を受ける需要家が負担を負うことになるため、受益者負担の観点からは適当な方法といえます。他方、この場合には、電気よりもガスや石油といった化石エネルギーの価格が相対的に安価となることから、後者の制度設計も考えられます。それぞれの方法のメリット・デメリットを慎重に吟味した上での決定が望まれます。 また、太陽光発電の投資者は、高額な設備を購入できる金銭的にゆとりのある世帯が中心となると考えられるところ、低所得世帯は、増大するコストの負担のみを強いられる結果となりかねず、低所得者層への配慮を欠かすことはできません。この点、低所得者への配慮は、公共料金と低所得者負担という社会政策の観点から考慮されるべきであり、買取制度とは別に適切に対応すべきであるとの意見もあります。負担の公平性や低所得者への配慮など、費用負担については、とりわけきめ細やかな制度設計が求められます。 (2)系統安定化対策 太陽光発電の大量導入については、発電した電力を輸送、分配し、電力需要家が消費するまでの流れを司るシステムである電力系統の安定化対策が不可欠です。それというもの、(1)太陽光発電の性質上、気候等で出力が大きく変動し、電力の需給バランスを崩しやすいため蓄電池などを利用して出力を調整する必要があり、また、(2)大量導入すれば電圧が上昇するため、配電網を整備する必要があるからです。 この蓄電池や配電網の整備など、系統安定化対策にかかるコストについて、経済産業省資源エネルギー庁に設置されている「再生可能エネルギーの全量買取に対するプロジェクトチーム」が、2020年までの負担総額について、いくつかのシナリオのもとで試算を行っています。 例えば、蓄電池の設置について、需要家側に設置すると、2800kWを導入するケースで2020年までに45.9兆円~57.2兆円かかるのに対し、系統側に設置すれば、16.2兆円の負担にとどまることが試算されており、さらに発電量の出力を抑制することで、負担総額を大幅に削減できることも試算されています。 今後は、試算データの精査など議論を深め、様々な工夫を重ねていくこととなりますが、社会コスト低減の観点から、国民の理解の得られる適切な出力抑制を行うことも検討すべき課題です。 |
4.おわりに 太陽光発電の買取制度は、昨年11月から制度が開始されたところであり、今後、運用上の課題の精査を行っていくこととなります。また、来年の4月からは、いよいよ電力料金への本格的な費用負担の転嫁が開始されます。政府には、費用負担について国民の理解や協力を得るため、説明責任を十分に果たすことが求められます。 ※国立国会図書館 ISSUE BRIEF第683号を参考にしました。 |
2010.07.19